Press release 04 9月, 2021

海洋生物への圧力が増大しているにもかかわらず,マグロ類は回復しつつある- IUCNレッドリスト

2021年9月4日,フランス,マルセイユ発 (IUCN) – 商業的に漁獲されるマグロ類4種は,この10年間にわたる地域漁獲枠の執行の成果として,回復に向かっていることが『IUCN絶滅危惧種レッドリスト™』の本日の更新版により明らかになった.これは,マルセイユでのIUCN世界保全会議で発表されたもの.しかし,この回復は,海産種への圧力が増大するなかで起こっている.世界のサメ・エイ類の37%が,乱獲により,これに生息環境の喪失と悪化,気候変動が重なって,絶滅の脅威に晒されている.

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Photo: Martin Gil Gallo / CC BY-NC

The yellowfin tuna moved from Near Threatened to Least Concern in this IUCN Red List update.

『IUCNレッドリスト』には,今では,138,374種が掲載されており,そのうち絶滅の脅威に晒されているのは38,543種である.

「本日のIUCNレッドリスト更新版は,海への圧力が増しているにもかかわらず,もし各国が持続的に実行するのであれば,種は回復することができるという強力な兆候である.マルセイユでのIUCN世界保全会議に参加している国とその他の関係者は,この機会を捉え,生物多様性保全という大きな志を高め,健全な科学邸データに基づいた,拘束力のある目標に向けて,作業を進めなければならない.このレッドリスト評価は,私たちの生命と生計がいかに生物多様性と密接に絡み合っているかを示すものである」とIUCN事務局長のブルーノ・オベール博士は述べた.

本日のレッドリスト更新版において,最も商業的に漁獲されているマグロ類7種が再評価された.そのうち4種が,回復の兆しを示した.各国が持続可能な漁獲枠を実行し,違法漁業に対抗してきた結果である.タイセイヨウクロマグロ(Thunnus thynnus) は「危機EN」から「低懸念LC」に,ミナミマグロ(Thunnus maccoyii)は「深刻な危機CR」から「危機EN」に移動した.ビンナガ(Thunnus alalunga)とキハダ(Thunnus albacares)は「準絶滅危惧NT」から「低懸念LC」に移動した.

種レベルでの世界的な改善にもかかわらず,多くの地域系群はかなり減少したままである.たとえば,地中海由来のタイセイヨウクロマグロ東部系群は,過去40年で少なくとも22%増加した.一方で,メキシコ湾で産卵する小型のタイセイヨウクロマグロ西大西洋系群は同期間に半分以上も減少した.キハダはインド洋で過剰に漁獲され続けている.

「これらのレッドリスト評価は持続可能な漁業アプローチが機能することの証明であり,長期にわたり大きな利益を人々の生計と生物多様性にもたらすことができる.私たちは持続可能な漁獲枠を実行し,違法漁業を根絶する活動を続けていく必要がある.マグロ類は何千キロもの距離を回遊するので,国際的に協調して管理をおこなうことも重要である」とIUCN種の保存委員会(SSC)マグロ・カジキ専門家グループ委員長のブルース・コレット博士は述べた.

タイヘイヨウクロマグロ(Thunnus orientalis)は,今回の更新版で,「危急VU」から「準絶滅危惧NT」に移動した.これは,最新の評価データとモデルが入手できたことによる.本種は,その初期生物体量の5%以下に大きく減少したままである.その他のマグロ類で再評価された種は,メバチ(Thunnus obesus)で,これは「危急VU」のままである.カツオ(Katsuwonus pelamis)は「低懸念LC」のままである.

本日のIUCNレッドリスト更新版では,世界のサメ類とエイ類の包括的再評価もされている.それによると,37%が絶滅危惧であり,世界の海洋の多くで効果的管理措置が欠けていることを示している.絶滅危惧のサメとエイはすべてが乱獲されている.31%が生息環境の喪失と悪化の影響を被っており,10%が気候変動の影響を受けている. 

気候変動の影響によりコモドオオトカゲは将来脅威に晒される
世界最大の現生トカゲであるコモドオオトカゲ(Varanus komodoensis)はIUCNレッドリストで「危急VU」から「危機EN」に移動した.本種はインドネシアの固有種で,世界遺産に指定されているコモド国立公園と近隣のフローレス島に生息しており,気候変動の影響によりますます脅かされている.世界的な温暖化とそれに伴う海面上昇により,コモドオオトカゲの好適生息環境が今後45年間で少なくとも30%減少すると予測されている.さらに,コモド国立公園の下位個体群は現在安定しており,よく保護されているが,フローレス島の保護区以外のコモドオオトカゲは継続的な人間による活動が原因の深刻な生息環境喪失により,危機に晒されている.

より詳しい情報やインタビューの申し込みは下記まで:

Harriet Brooker, IUCN Media Relations, +44 7960241862, [email protected]
Matthias Fiechter, IUCN Media Relations, +33 6 73 48 65 13, [email protected]

参考となる引用文:

「今回のIUCNレッドリストの更新版で1600種が新たに追加され,これに支援することができた.世界の生物多様性の健康に関する最新知識に向けてトヨタが貢献していることは喜ばしい.この情報は,IUCN世界保全会議でなされる決定に情報提供するうえで,重要である.それにより,生物多様性喪失を逆戻りさせるための今後数十年間の行動の駆動力となる」とトヨタ自動車の広報官は述べた.

「商業漁業対象のマグロ類の生息状況に関する今回の結果は,持続可能な漁業は可能であることを強調するものである.しかし,一部の資源はうまく行っておらず,持続可能な管理のためにはデータ収集の改善,報告努力,よりよい漁獲技術,効果的な規制の構築と取締まり,漁獲枠,その他の政策を必要とする」とアリゾナ州立大学准教授でIUCN/SSCマグロ・カジキ専門家グループのレッドリスト当局コーディネータのベス・ポリドロ博士は述べた.

 「『世界樹木評価』はIUCNレッドリストのために世界の木本植物の評価を続けており,数千種の木本植物の評価結果が今年レッドリストに追加された.これには186か国(ブラジル,パプアニューギニア,フィリピン,ハイチ,コスタリカ,オーストラリアなど)の樹種が含まれる.さらに,伐採により影響を受けていると特定された1000種以上が今回初めて評価された.フタバガキ,エボニー,ローズウッドなどである.私たちは,IUCNレッドリストに加わった樹種は種ごとに,世界の絶滅危惧状況について情報を提供し続けることとし,効果的な保全行動を実行するうえで不可欠な情報を提供する」と植物園自然保護国際機構の保全優先順位部長のマリン・リバース博士は述べた.

「ビンナガが,乱獲されていない魚種に指定されたにもかかわらず,単位努力量当たりの漁獲量(CPUE)は何年にもわたり減少している.とくにビンナガへの気候変動の影響については大きな不確実性がある.このことから,気候に関する継続的作業と地域レベルでの漁獲規制ルールの作業が重要である」とコンサベーション・インターナショナルの海洋センター副会長のジャック・キッティンガー博士は述べた.

「サメ・エイ類の再評価がなされたことは喜ばしいことだ.生態学的に重要な種群の包括的再評価は,生命のバロメータとしてのIUCNレッドリストの価値を維持するうえで重要である.サメ・エイ類の統計と植物に関する最近の推定値の間に大きな類似性があることがわかる.植物は5種のうち2種が絶滅危惧にあり,生息環境の喪失と悪化が気候変動よりも直近の脅威となっている」と英国王立キューガーデンの保全評価分析上級研究リーダーのアイマー・ニック・ルガダ博士は述べた.

「商業的に漁獲されているマグロ類の何種かで保全努力が機能していることがわかり,勇気づけられる.でも,生息環境の悪化,乱獲,気候変動の複合的影響が続いており,何千もの種が絶滅の脅威に晒されている.このIUCNレッドリスト更新版は,世界的政策に影響すべく,生物多様性データと近代的技術を用いることにより,危機にある種を目標として証拠に基づいた保全決定をおこなう必要性があることを補強するものである」とネイチャー・サーブ会長のシーン・オブライエン博士は述べた.

「コモドオオトカゲは, 60年前にデイヴィッド・アッテンボロー卿により,BBCの人気番組である『ドラゴンを求めて』で初めて英国民に紹介された.この先史時代の動物が,気候変動も原因の一端となって絶滅に近い区分まで移動したというのは,恐ろしいことである.自然のための大きな声がグラスゴーでのCOP26を前にして,あらゆる意思決定の中心に据えられなければならない」とロンドン動物学会保全部長のアンドリュー・テリー博士は述べた.

編集者への注

 IUCNは野心的な「ポスト2020生物多様性枠組」の作成を積極的に支援している.『IUCN絶滅危惧種レッドリストTM』と『レッドリスト指標』は生物種保全目標に向けての進捗状況を追跡するために使われる.

IUCN–トヨタパートナーシップ: 2016年5月に発表されたIUCNとトヨタ自動車との5年間パートナーシップにより,世界の人口の大部分にとって重要な食糧源である多くの種を含む,全体で36,000種以上の生物種の絶滅リスクに関する知識が大幅に向上した.このパートナーシップは「トヨタ環境チャレンジ2050」に基づくもので,自動車の負の影響をゼロにまで減らし,同時に社会にプラスの影響を与えることを目指している.

IUCNレッドリスト

2021-2 IUCN絶滅危惧種レッドリストに関する世界的な統計数値:

評価された合計種数 =138,374

(絶滅危惧種総数 = 38,543)

絶滅(EX) = 902

野生絶滅(EW)= 80

深刻な危機(CR)= 8,404

危機(EN)= 14,647

危急(VU)= 15,492

準絶滅危惧(NT)= 8,127

低リスク/保全依存= 170 (これは旧カテゴリーで, 『IUCNレッドリスト』からは次第に消えて行っている)

低懸念(LC)= 71,148

データ不足(DD)= 19,404

上に示した数字は,今日までに『IUCNレッドリスト』用に評価された種に限られている.世界に生存する種がすべて評価されたわけではないが,IUCNレッドリストは今日,種に何が起こっているかの有益な概観を提供し,保全行動が緊急に必要であることを強調するものである.IUCNレッドリスト掲載の多くの分類群について,絶滅危惧種の相対的な割合を明示することはできない.というのは,包括的にすべての種を評価したものではないからである.これらの種群の多くで,評価努力は特に絶滅危惧種に焦点を当てたものであり,それゆえ,これらの種群に占める絶滅危惧種の割合は,ひどく偏ったものとなっている.

すべての種が包括的に評価された分類群では,絶滅危惧種の割合を計算することができる.しかし,絶滅危惧種の実数は,しばしば不確実である.というのは,データ不足種(DD)が実際に絶滅危惧なのかどうかわからないからである.それゆえ,上に示した割合は,包括的に評価された分類群(絶滅種を除く)に関する絶滅リスクの最善の推定値である.これは,データ不足種はデータが十分な種と同じ割合で絶滅危惧であるという仮定に基づいている.換言すれば,これは,絶滅危惧種x %(DD種はすべて絶滅危惧でない)からy %(DD種はすべて絶滅危惧である)までの範囲にある中央値でもある.利用できる証拠に基づけば,これが最善の推定値である.

IUCNレッドリストの危惧のカテゴリーは,以下のとおり.上のほうが危惧度合いが高い:

「絶滅EX」または「野生絶滅EW

「深刻な危機CR,「危機EN」,「危急VU: 地球規模で絶滅危惧にある種.

「準絶滅危惧NT」:絶滅危惧カテゴリーの閾値に近い種,もしくは現在の保全措置が中止されると絶滅危惧になる種.

「低懸念LC: 絶滅の危険性が低いと評価された種.

「データ不足DD: 不十分なデータのため評価できなかった種.

「深刻な危機CR(絶滅した可能性)」あるいは「深刻な危機CR(野生絶滅した可能性)」: これはIUCNレッドリストカテゴリーではないが,おそらくすでに絶滅しているものの,最終確認を必要とする「深刻な危機CR」種を特定するために設けられた標識である.たとえば,より広範な調査を実施することにより,個体を発見することができないことを確認する必要がある.